アジャイルの基本とは? 手法の特徴やマインドセット、取り入れ方のポイントを解説

アジャイルの基本とは? 手法の特徴やマインドセット、取り入れ方のポイントを解説

近年、DXへの注目の高まりと同時に重要視されている「アジャイル」という概念。IPAが発表した「DX白書2021」においてもDX推進には「アジャイルの原則とアプローチを組織のガバナンスに取り入れている」ことが重要であることが指摘されています。

本記事は、アジャイルの基礎知識や基本のステップ、アジャイル開発との違い、先行事例などをわかりやすく解説しています。

目次

アジャイルとは

アジャイル(agile)とは直訳すると「素早い」「機敏な」「頭の回転が早い」という意味。

この「アジャイル」の考え方を取り入れたアジャイル手法は、もとはソフトウェアの開発手法のひとつとして考案されましたが、近年ではDX推進という観点からも大きな注目を集めています。

IPAの「DX白書2021」においても、アジャイルの原則にのっとったDX推進の重要性が指摘されています。

DXは、ニーズの不確実性が高く、技術の適用可能性もわからないといった状況下で推進することが 多く、状況に応じて柔軟かつ迅速に対応していくことが必要である。そのため、日本企業にもアジャイルの原則にのっとったDXへの取組が求められる。

*  アジャイルの原則とアプローチとは、顧客価値を高めるために企画、実行、学習のサイクルを継続的かつスピー ド感をもって反復することを指す。

出典:IPA「DX白書2021

つまり、アジャイルの原則のアプローチとは、「顧客価値を高めるために企画、実行、学習のサイクルを継続的かつスピード感を持って反復すること」です。

こうしたアジャイルの考え方はもともと、プロダクトを効率的に開発するために作られた「アジャイル開発手法」から生まれたものです。

アジャイル開発手法は「計画→設計→実装→テスト」といった開発工程を機能単位の小さいサイクルで繰り返すのが特徴です。

★アジャイル開発について詳しくはこちら

要件定義や全体の機能設計を固めてから開発を行うウォーターフォール開発と比較して、アジャイル手法は開発途中の仕様・要件変更に強いというメリットがあります。

変化に柔軟に対応できるアジャイル手法は、絶えず変化するテクノロジーやユーザーニーズに合わせて変革を行うDX推進において不可欠です。

★アジャイル開発とウォーターフォール開発の違いについて詳しくはこちら

アジャイルソフトウェア開発宣言について

2001年、アメリカ・ユタ州に集まった17名の技術者・プログラマーによって提唱された「アジャイルソフトウェア開発宣言」により、アジャイルという概念が広く知られるようになりました。

この宣言は、優秀な技術者たちがソフトウェア開発に関する業界全体の問題やより良い開発手法について議論するなかでまとめられました。

宣言では、アジャイルの4つの価値および12の原則が定義されており、アジャイル思考の基本的な考え方が凝縮されています。

アジャイルの4つの価値

アジャイルの価値は、以下の4つの項目に構成されています。

私たちは、ソフトウェア開発の実践
あるいは実践を手助けをする活動を通じて、
よりよい開発方法を見つけだそうとしている。
この活動を通して、私たちは以下の価値に至った。
プロセスやツールよりも個人と対話を、
包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを、
契約交渉よりも顧客との協調を、
計画に従うことよりも変化への対応を、
価値とする。すなわち、左記のことがらに価値があることを
認めながらも、私たちは右記のことがらにより価値をおく。

出典:アジャイルソフトウェア開発宣言

この4つの価値は、顧客のニーズやフィードバックを反映し、変化に柔軟に対応することで質の高い製品を効率よく生み出し、クライアントやユーザーの満足度を高めることを目指して策定されました。

アジャイルの12原則

上記の4つの価値は、アジャイルの12の原則として詳細に解説されています。

①:私たちの最優先事項は、価値のあるソフトウェアを早期かつ継続的に提供することでお客様を満足させることです。

②:たとえ開発の後半であっても要件の変更を歓迎します。アジャイルプロセスは、柔軟に変化に対応することにより顧客の競争上の優位性を高めます。

③:動作するソフトウェアを数週間から数か月という短いスケジュールでリリースします。

④:ビジネス側のメンバーと開発者は、プロジェクト全体を通して日々協力しあって一緒に働きます。

⑤:意欲あるメンバーを集めてプロジェクトを構築します。彼らに必要な環境とサポートを提供し、仕事を完遂するまで彼らを信頼します。

⑥:開発チームとの間で情報を伝達するための最も効率的で効果的な方法は、対面での会話です。

⑦:動作するソフトウェアこそが、進歩の最も重要な尺度です。

⑧:アジャイルプロセスは持続可能な開発を促進します。スポンサー、開発者、およびユーザーは、開発を一定のペースで維持できるようにする必要があります。

⑨:卓越した技術と優れた設計への継続的な注意が開発の敏しょう性を高めます。

⑩:シンプルさ(無駄なく作れる量を最大化すること)が本質です。

⑪:最高のアーキテクチャ、要件、および設計は、自己組織的なチームから生まれます。

⑫:チームは定期的に集まってより効果的になる方法を検討し、それに応じてやり方を最適化できるように調整します。

出典:Agile Alliance

アジャイルの原則に則ったアプローチの重要性

それでは、アジャイル手法はビジネス領域においてどのように重要なのでしょうか。近年、アジャイル手法に注目が集まっている理由を解説します。

アジャイルの原則に則ったアプローチとは

アジャイルの考え方は単なる開発手法にとどまらず、広くビジネス領域全般に導入する動きが活性化しています。

IPAが発表した「DX白書2021」においてもアジャイルの原則に乗っ取ったアプローチが、不確実性の高いDX推進において状況に応じて柔軟に対応できる手法であるとして紹介されています。

また、「日本では失敗を許容しにくい硬直的なガバナンスが変革の妨げになっている」として日本の多くの組織が抱える構造上の問題を指摘し、その解決策としてアジャイルの原則に則ったアプローチに基づく評価と改善プロセスの確立を提案しています。

アジャイルの原則に則ったアプローチ(アジャイル思考)とは、ソフトウェアの開発手法である「アジャイル開発」とは異なり、新規事業開発やプロジェクトおよび組織のマネジメントなどビジネスにおけるさまざまな領域にアジャイルの考え方を取り入れることを指します。

アジャイルが注目される背景

近年のコロナ禍に代表されるように、現代は「VUCAの時代」と呼ばれています。VUCAとは、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を取った言葉で、予測が難しく変化の激しい時代を意味します。

VUCAの時代において、従来のウォーターフォール式の考え方でビジネスを始めていては、「競合に先を越されてしまった」「リリースした時には市場においてありふれたものになっていた」などの事態に陥りかねません。

目まぐるしいテクノロジーの進化やユーザーニーズの移り変わりに対応するには、変化に対して柔軟な対応ができるアジャイルの原則が必要不可欠です。

アジャイルを取り入れるポイント

アジャイルの基本は、アウトプットの素早さとフィードバックを元にした改善の繰り返しです。最初から完璧な設計図を元に完成を目指すのではなく、何度もサイクルを繰り返しながら完成形に近づけていきます。

アジャイル思考をビジネスに取り入れる際、どのような点に気をつける必要があるのでしょうか。ポイントを解説します。

①チームビルディング

チーム環境を整えることは、アジャイルの「レフトウィング」とも呼ばれており、アジャイル思考を取り入れるために必要な要素のひとつ。

定例の朝会を実施したり、イテレーション(反復期間)ごとに振り返りの場を設けるなど、チームとしての質を高めるコミュニケーションの機会を積極的に設けましょう。

②見切り発車をしない

最初に完成形への綿密な計画を立てないアジャイル思考とはいえ、「とりあえず実装してみて、後から考えよう」と安易に見切り発車してしまうことはおすすめできません。

いくら仕様変更に強いといっても、無駄になってしまうことにわざわざ着手する必要はありません。実装に進む前に必要性をしっかりと検討したうえで、必要不可欠な機能だけを要件に残すようにしましょう。

③こまめな情報共有・相互理解

アジャイル手法は柔軟な対応が可能とはいえ、新たな要件が出てくるごとに暫定的に対応をしていてはプロジェクトやシステムの設計が悪くなってしまうこともしばしば。

事前に、このプロジェクトの目的、実現したいこと、方向性についてメンバー間やステークホルダーとしっかり共有しておくことが重要です。

変化に合わせた柔軟な対応ができるよう、メンバー間で事前にしっかり認識をすり合わせてプロジェクトやシステムを設計しておくことで、結果的により良いものを作れます。

アジャイル手法の基本のステップ(モンスターラボの場合)

次に、アジャイル手法を取り入れる際の基本のステップを解説します。

①取り組むテーマ(範囲)の決定

アジャイル手法を導入すべきテーマを決定します。またテーマごとに自社の事業への貢献インパクトを分析し、その評価に準じて取り組むテーマの優先順位づけを行います。

取り組むテーマの優先順位付けが終わったら、優先順位の高いテーマから開発に着手します。

②チームビルディング

プロジェクトに携わるメンバーを集め、チームビルディングを行います。クライアント企業など、他社のメンバーがチームに入ることもあります。

③全体スケジュールの作成

プロジェクトを短いスパン(1〜4週間程度)のスケジュールで実施できる範囲に切り分け、リスト化します。

④イテレーション(短いスパンの開発)

短い期間の間に定められたテーマに合わせて要件を定義し、設計、実装、テスト、リリース、ユーザーからのフィードバックをもとにした改善というサイクルを繰り返します。

⑤次に取り組むべきテーマの検討

実施した開発や最初の優先順位の検討内容を踏まえ、次に実施する開発のテーマを検討します。

代表的なアジャイル手法:スクラム

さて、より具体的にアジャイル手法に対する理解を深めるために、代表的なアジャイル手法のひとつである「スクラム」について解説します。

スクラムは、複雑な問題にチーム一体となって取り組むフレームワークです。プロジェクトの状況を可視化することや、反復を重要視しているのも特徴です。

スクラムを実行するにあたって、下記のようなプロセスが定義されています。

①デイリースクラム

チームで毎日行う情報共有の場。原則として、スプリント中は毎日同じ時間・場所で行われます。

メンバーひとりひとりが1日の作業内容や昨日までの進捗、問題となっていることを共有し、プロジェクトの全体像を把握することで課題をスムーズに解決できるようにします。

②プロダクトバックログ・リファインメント

「リファインメント」という活動を通じて、プロダクトのプランニングを行います。

プロダクトを作成するためにどんな機能を開発する必要があるのかや、開発する機能の優先順位、どのくらいの期間で開発するかなどの大まかな計画を立てます。

成果物:プロダクトバックログ

  • ・どんな機能を開発するのか
  • ・開発する機能の優先順位

③スプリント計画

1つのスプリント(イテレーション)で実行する作業の計画を立てます。

成果物:スプリントバックログ
スプリントバックログは、以下の3点で構成されています。

  • ・スプリントゴール(なぜ)
  • ・プロダクトバックログアイテム(何を)
  • ・インクリメントを届けるための実行可能な計画(どのように)

④スプリント(イテレーション)

スプリントは実際に開発を行う期間のことです。スプリントは通常1~4週間といった決まった期間で実施され、前のスプリントが終わり次第、新しいスプリントが開始します。

シンプルな機能を短い期間で開発することにより、より多くの学習サイクルが生まれ、無駄なコストや労力を使ってしまうリスクを減らすことができます。

一方で、期間が長すぎたり開発の内容が複雑すぎるとスプリントゴールが役に立たなくなり、プロジェクトが成功するタイミングや、軌道修正を行えるタイミングが遅くなってしまう可能性が高まります。

また、各スプリントでは実際に市場にリリース判断可能な状態のプロダクトを開発します。これを「出荷可能な開発単位」と言います。

⑤スプリントレビュー

スプリントレビューの目的は、スプリントの成果を検査(開発したプロダクトのレビュー)し、今後の対応を決定すること。

スプリントで達成されたことや変化した点を各ステークホルダーに共有し、次にやるべきことを話し合います。

⑥スプリント振り返り

1つのスプリントが終わるごとにチームで振り返りを実施します。

振り返りの目的は、今回のスプリントの進捗やよかった点、悪かった点、課題の共有を実施し、次回のスプリントの進め方を改善することです。

出典:スクラムガイド

モンスターラボのアジャイル開発事例

最後に、実際にアジャイル手法を用いてサービスおよびプロダクト開発を行なった事例をご紹介します。

オプティマインド|配送業者向けドライバーアプリ『Loogia』

ドライバーの声を活かして改善を繰り返すことを念頭に、アジャイル開発でスタート

ドライバーの声を活かして改善を繰り返すことを念頭に、アジャイル開発でスタート

近年、物流業界で深刻化しているのが、少子高齢化にともなうドライバーの不足。オプティマインドでは、配送ドライバーの業務サポートと業務フローの脱属人化につながる新規サービス開発を企画。モンスターラボは同社が配送業者向けに提供するドライバーアプリの開発に企画段階から参画し、UX/UIデザインからプロダクト開発までの工程を担当しました。

実際に配送業務に携わるドライバーの声を活かして改善を繰り返すことを念頭に、プロジェクトはアジャイル開発でスタート。オプティマインド社の保有する知見をもとに必要最低限の機能を精査し、要件定義を行いました。

プロジェクト開始から約6ヶ月という短期間で、β版のテストを経たネイティブアプリが完成。ビジネスロードマップ上の期日に合わせた素早い開発が評価されました。

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クボタ|故障診断アプリ『Kubota Diagnostics(クボタ ダイアグノスティックス)』

3Dモデル・ARを活用した故障診断アプリ

3Dモデル・ARを活用した故障診断アプリ

クボタは、グローバルに製品を展開する大手建機・農機メーカー。

課題となっていたのは、現地販売代理店のサービスエンジニアの手で行われている建機の修理が、担当者の経験・スキルによってはマニュアルだけではサポートできないという点。

ダウンタイムによる建機の稼働率低下は、ユーザーの収益減少に直結します。そのため、迅速かつ効率的で誰にでもわかりやすく、サービスエンジニアの能力に左右されない故障診断サポートが求められていました。

モンスターラボはこれらの解決策として、故障診断アプリを開発。エラーコードや不具合症状を入力するだけ点検箇所や修理方法が表示されるシンプルな故障診断フローを構築しました。
また、課題となったAR・3Dモデル機能の精度向上にはアジャイル開発を導入。2週間に1回のペースでスプリントを組んでデモを提出し、フィードバックをいただいては改善を繰り返し精度を向上させていきました。

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鹿児島銀行 |スマホ決済アプリ『Payどん』

アジャイル手法を用いて機能を絞り込んで開発を進め、順次機能を追加

アジャイル手法を用いて機能を絞り込んで開発を進め、順次機能を追加

スマホ決済アプリ「Payどん」は、鹿児島銀行に口座を保有する顧客が利用できるキャッシュレス決済サービス。

モンスターラボは、「Payどん」アプリの開発に携わるとともに、鹿銀の行内開発チームにトランスファー型の技術支援を実施。開発の過程を通じてアプリ開発のスキルやノウハウを残し、初回リリース以降はクライアントチーム主導で運用できる環境づくりを目指しました。

アジャイル手法を用いて機能を絞り込んで開発を進め、順次機能を追加していきました。これにより、2018年7〜8月から開発をスタートして同年11月には行内で実証実験という厳しいスケジュールにも対応することができました。

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LIXIL(リクシル)|玄関ドアの電動オープナーシステム用アプリ『DOAC(ドアック)』

アジャイル型で開発を進めてサービスを市場に出し、実際に運用しながら事業として脈があるかを検証

アジャイル型で開発を進めてサービスを市場に出し、実際に運用しながら事業として脈があるかを検証

国内最大手の建材・設備機器メーカーLIXILは、社会のバリアフリー化やコロナ禍における感染症対策のニーズを受け、玄関ドアの電動オープナーシステム用アプリ『DOAC(ドアック)』を開発。

モンスターラボは、当アプリの要件定義から技術調査、UX/UIデザイン、プロダクト開発までの各工程を担当しました。

本プロジェクトは、アジャイル型で開発を進めてサービスを市場に出し、実際に運用しながら事業として脈があるかを検証し、事業規模を段階的に大きくしていくことを念頭にスタート。

モンスターラボは、さまざまなサービスにおけるアジャイル開発実績の知見を生かし、ビジネスの上流から各ステークホルダーに対するコミュニケーションまであらゆる角度からのサポートを実施しました。

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まとめ:アジャイル手法を用いてユーザーの求めるサービスを生み出す

本記事は、アジャイルについて解説しました。

アジャイルの原則とアプローチは、顧客価値を高めるためにスピード感を持って企画・実行・学習のサイクルを反復する手法のこと。変化の激しい時代のニーズに合わせたサービスを開発する上で有効な手段とされています。

特に、近年さまざまな企業が取り組むDXには、明確な答えがなく、実現可能性もわからないといった状況にしばしば陥りがちです。こうした状況に柔軟な対応ができるアジャイルの原則とアプローチは、企業のDX推進において重要なファクターであると言えるでしょう。

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