ウェルビーイング(Well-being)とは? 言葉の意味や尺度、デジタルテクノロジーの応用例を解説

ウェルビーイング(Well-being)とは? 言葉の意味や尺度、デジタルテクノロジーの応用例を解説

人々の豊かさの概念として、今世界で注目されているウェルビーイング(Well-being)

2007年の国際会議「Beyond GDP」に始まり、2012年にスタートした「世界幸福度ランキング」、2015年に国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」でも言及され、より良い社会を築くための指標として重要視されています。

また、2018年にはGoogle、Appleなど大手IT企業がデジタルウェルビーイング(Digital Well-being)への取り組みをスタート。テクノロジーとの健全な付き合い方が模索され始めました。

そして現在は、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に伴い、人々を豊かにするためのデジタル変革が求められています。

この記事では、ウェルビーイングの基礎知識を紹介しながら、それを決定付ける要素にはどのようなものがあり、テクノロジーはどう関与するべきか、実例を交えながら解説します。

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ウェルビーイング(Well-being)とは? 言葉の意味と背景

スイス・ジュネーブにある世界保健機関(WHO)本部

スイス・ジュネーブにある世界保健機関(WHO)本部

まずはウェルビーイングの意味を解説。まずはウェルビーイングの意味を解説。また、ウェルビーイングと関連深いWHO設立の背景にも触れます。

ウェルビーイング(Well-being)の意味

ウェルビーイングが初めて言及されたのは1946年のこと。世界保健機関(WHO)設立にあたって考案された憲章に含まれていました。

Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.

(健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。)
ーー社団法人 日本WHO協会「世界保健機関(WHO)憲章

ただしこれは仮訳で、現在でもウェルビーイングの定訳は決まっていません。聖学院大学教授の中谷茂一氏は「良好な状態」、予防医学者の石川善樹氏は好調でも不調でもない「普通の状態」、書籍「ウェルビーイングの設計論 : 人がよりよく生きるための情報技術」(渡邊淳司/ドミニク・チェン 監訳)では「いきいきとした状態」と表現しています。

つまり、ウェルビーイングは人間の豊かな生活を表す概念ということ。現在、医学、心理学、経済学、デザイン学、コンピュータサイエンスなど多方面から研究が進んでいます。

ウェルビーイング(Well-being)が定義された背景

前述の憲章について、WHO設立者の1人である施思明(スーミン・スー)は「多くの人が憲章で“健康”を定義するべきだとは考えていなかった」と後のインタビューで明かしています。

当時、WHOの前身ともいえる「国際衛生会議(ISC)」は、コレラ・黄熱病・ペストといった感染症の知識を国境を越えて共有し、国際的な検疫制度を整えるために開かれていました。したがって、“健康(Health)”ではなく“病気(Disease)”を定義するべきだと考えられていたのです。

しかし、スーミン・スーは予防医学(病気の予防・治療)だけでなく、健康の促進の重要性を提唱。“健康”を機関名や憲章に取り入れるよう提案しました。

WHOは1948年に設立。以降、ウェルビーイングを取り入れた憲章は一度も変更されることなく掲げられています。

ウェルビーイング(Well-being)の種類と尺度

ウェルビーイングは大まかに「医学的」「快楽的」「持続的」の3種類に分けられる

ウェルビーイングは大まかに「医学的」「快楽的」「持続的」の3種類に分けられる

ここからは、それぞれに不十分な側面を補い合うウェルビーイングの種類を見ていきましょう。

① 医学的ウェルビーイング

心身ともに病気でなく、機能障害がない状態のウェルビーイング。人類が長年研究してきたもので、健康診断やメンタルヘルス関連のチェック項目によって測定できます。

しかし、予防医学としては効果を発揮するものの、健康促進の観点では不十分といえます。

② 快楽的ウェルビーイング

ポジティブ感情の体験としてのウェルビーイング。人間心理における快楽を研究する「快楽心理学」がベースで、心拍数・ホルモン量などの生体反応、日誌など自己報告式の資料などから測定されます。

快楽心理学で活用される尺度には、イリノイ大学心理学教授で、幸福研究の第一人者といわれるエド・ディーナーが開発した主観的ウェルビーイングがあります。これは、ポジティブ・ネガティブな体験、人生の満足度の評価を自己報告するもの。

この尺度は、国連が毎年3月20日に発表するウェルビーイング調査「世界幸福度調査」の設問にも用いられています。体験は計10項目、評価はキャントリルの階梯と呼ばれる10段階評価によって報告される仕組みです。

体験のポジティブ感情とネガティブ感情、また、体験と評価はそれぞれ別の概念として扱われる

体験のポジティブ感情とネガティブ感情、また、体験と評価はそれぞれ別の概念として扱われる

しかし、快楽的ウェルビーイングは個人の主観を重視するあまり、人々の豊かさの指標としては視野が狭いという見方も。そこで考慮されるのが次の持続的ウェルビーイングです。

③ 持続的ウェルビーイング

心身の潜在能力の発揮、人生の意義の発見としてのウェルビーイング。持続的・包括的な豊かさの指標で、開花を意味するフローリシングという言葉が使われるときも。

ベースとなるのは、人間のモチベーションについての基本理論である「自己決定理論」。以下の3項目が軸です。

自律性 自分の活動の結果は自分の意図によるものだと思えること

有能感 自分には課題解決能力があると信じられること

関係性 人とのつながりを感じられること

持続的ウェルビーイングでは、これらが満たされていることを高く評価するのではなく、阻害された場合にマイナスの影響があるという観点で用いられます。

現在のウェルビーイングは、医学的ウェルビーイングを起点に、快楽的ウェルビーイングと持続的ウェルビーイングを組み合わせたアプローチが多いといえるでしょう。ポジティブ心理学の創始者、マーティン・セリグマンによるPERMA理論などがこれにあたります。

PERMAを構成する5つの要素。それぞれの頭文字をとっている

PERMAを構成する5つの要素。それぞれの頭文字をとっている

PERMAはウェルビーイングを構成する5つの要素(ポジティブ感情・没頭・関係性・意義・達成)を指します。それぞれを向上することで、個人、組織、国家の繁栄を図ることができると考えられています。

ウェルビーイング(Well-being)の特徴

ここからは、ウェルビーイングについての誤解や重要なポイント、現在研究が進んでいる地域文化別の違いを解説します。

お金があっても幸せになれない

経済的要因と幸福度の関係は、長く研究されてきたテーマの1つです。

有名なものには、経済学者リチャード・イースタリンによるイースタリンの逆説があります。これは、同じ国において、裕福な人のほうがいずれの時点でも人生に満足している傾向があるものの、所得と幸福度の度合いは必ずしも比例しないという発見。基本的欲求が満たされると、それ以降は収入・財産などの影響が少なくなります。

ノーベル経済学賞を受賞した行動経済学者ダニエル・カーネマンは、アメリカで45万人を対象に収入や生活満足度、ストレスの度合いを調査。その結果、幸福度は年収7万5000ドル(約800万円)でほぼ頭打ちになることが判明しました。

経済性による幸福度の限界は、個人のみならず国家・世界レベルで取り上げられています。

2007年に欧州委員会・欧州議会が開催した国際会議「Beyond GDP」、2015年に国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」では、新たな豊かさの指標としてウェルビーイングに言及。日本でも2020年、人々の幸福(Human Well-being)を目指す「ムーンショット型研究開発制度」が発足しました。

重要なのは“人とのつながり”

持続的ウェルビーイングのポイントとなる関係性(人とのつながり)は、幸福との深い関係が報告されています。

1938年に始まった「ハーバード成人発達研究」は、724人の男性を青年期から追い続け、幸福と健康に必要な要素を調査。4代目研究責任者を務める精神科医ロバート・ウォールディンガーは「最も幸せに過ごしてきた人々は、家族・友人・コミュニティなど人間関係に頼った人々だった」とレポートしました。

神経科学では、人生の満足度・モチベーションといった意識が、脳の前帯状皮質・前部島皮質で構成されるサリエンスネットワークの働きによって形成されることがわかっています。ここでは、愛・希望・喜び・寛容・思いやり・信頼・畏敬・感謝という8つのポジティブ感情が頻繁に検出されており、そのほとんどは人とのつながりから生じる感情です。

経済学者で、世界幸福度調査の編集に携わったジョン・ヘリウェルも、幸福になるためには「社交的になる」「他者を信頼する」「帰属する場所を見つける」「寛容になる」ことが重要という研究結果を公開しています。

西洋と東洋では考え方が異なる

ウェルビーイングの捉え方は、地域や文化によって異なります。

エド・ディーナーは2018年、人々とウェルビーイングの感覚の相関について論文を発表。そのなかで幸福を、アメリカは獲得型(自分の能力によってもたらされる)、日本や中国は運勢型(運によってもたらされる)と結論付けました。その要因として、アメリカでは自尊心など個人を重んじるのに対し、日本では周囲と調和が重んじられる文化的自己観の違いを挙げています。

アメリカをはじめとする欧米人は「相互独立的自己観」、日本を含む東アジア人は「相互協調的自己観」をもつ傾向がある

アメリカをはじめとする欧米人は「相互独立的自己観」、日本を含む東アジア人は「相互協調的自己観」をもつ傾向がある

独立した存在として感情を経験する西洋に対し、自己と他人の境界線が融合する東洋。個人で完結せず、他者と縁起的な関係を結ぶという意味では、インターネットは東洋の考え方に近いという見方もあります。

デジタルウェルビーイング(Digital Well-being)とは? 各所の見解

現在、人間とテクノロジーが健全な関係を築く方法が模索されている

現在、人間とテクノロジーが健全な関係を築く方法が模索されている

ここからは「デジタルウェルビーイング」と呼ばれる情報通信技術とウェルビーイングの関係を見ていきましょう。ウェルビーイング同様、概念が広義にわたるため、代表的なものをまとめます。

Googleが定めるデジタルウェルビーイング

Googleは、デジタルウェルビーイングを「テクノロジーとの健全な関係を構築し、適切に管理しながらメリットを最大限に受けること」と定義。テクノロジーを利用する際は、個人の「有意義な時間(Time Well Spent)」の定義に沿って利用習慣を見直し、利用状況をモニタリングする必要があると説いています。

ユーザーのデジタルウェルビーイング実現のため、Googleは2018年の開発者会議にて、Android OSの新機能「Digital Wellbeing」を発表。アプリの使用時間を把握できる「Dashboard」、使用時間を制限できる「App timer」、通知を非表示にできる「Do Not Disturbモード」などを搭載。その後も次々と新機能が追加されています。

WIREDが考えるデジタルウェルビーイング

雑誌「WIRED」日本版は2019年3月、デジタルウェルビーイングを特集。編集長の松島倫明氏は、デジタルウェルビーイングを「苦しみや不健康を修復・回復し、ネットやスマホに脳をハックされない有意義な時間(Time Well Spent)を取り戻すという一般的定義を超えて、テクノロジーによって増幅され、拡張されていく」ものと定義しました。

それぞれのフェーズには以下のような活動・テクノロジーが含まれます。

修復・回復 睡眠、瞑想、有酸素運動、共感など
増幅 有意義な時間、共感覚、ウェアラブル 、5G、アルゴリズムなど
拡張 AI、VR、ロボット、トランスヒューマニズム、人工生命など

日本が研究するデジタルウェルビーイング

国内プロジェクト「日本的Wellbeingを促進する情報技術のためのガイドラインの策定と普及」では、大阪大学准教授の安藤英由樹氏を中心に、日本独自のデジタルウェルビーイングを研究。その軸を以下のように定めています。

自律性 ユーザーが自分のまわりの環境に対し、主体能動性を獲得できているかどうか

思いやり 自己のウェルビーイングのみならず、まわりの他者のそれにも寄与できるか

受け容れ 自律性と他者の存在が調和し、現在のポジティブ・ネガティブの双方を含む状況を受け容れられるか

ポジティブ心理学からのデジタルウェルビーイング

マーティン・セリグマンらが提唱した「ポジティブ心理学」は、疾患がある人々を回復させるだけでなく、普通の人々をより幸せにしたり、才能を高めたりするための科学的研究。そのためにデザインされた情報通信技術のことをポジティブ・コンピューティングと呼んでいます。

ポジティブ・コンピューティングは、前述の自己決定理論やPERMA理論をもとにデザインされます。ウェルビーイングを妨害しないためのツール、潜在能力を発揮させるためのサービスなどさまざまなタイプがあり、個人間のコミュニケーション、教育や診療などあらゆる分野に応用可能。その成果はHCI(ヒューマン・コンピュータ・インタラクション)、心理学、経済学などの尺度で測定されます。

デジタルウェルビーイング(Digital Well-being)の決定因子と事例

ここからは、ポジティブ・コンピューティングの考え方をもとに、テクノロジーが介入できるウェルビーイングの決定因子を解説。それぞれのエビデンスとなる理論・文献、テクノロジーの応用例についても触れていきます。

① ポジティブ感情

喜び、興味、自尊心、愛といったポジティブな感情を指し、前述の快楽心理学、主観的ウェルビーイングの研究によって裏付けられます。

ポジティブ感情は、瞬間的な心地よさだけでなく、持続的ウェルビーイングのためにも重要です。心理学者のバーバラ・フレドリクソンによると、喜びは創造性、興味は探究・学習など、ポジティブ感情は意欲と因果関係があることがわかっています。また、ほかのウェルビーイング因子である「心理的回復力」の向上にも影響します。

② 動機付け・没頭

持続的ウェルビーイングで述べたように、動機付け(モチベーション)はウェルビーイングと関連しており、自己決定理論によって裏付けられています。

動機付けから生まれた行動を継続するには、動機付けが報酬などの外的要因ではなく、内的要因(楽しい、好き、興味がある)によるものであること、そして没頭する時間も必要です。

心理学者ミハイ・チクセントミハイは、深い没頭をフローと名付けました。フローは学習意欲や創造性と密接な関係にあり、人間がより複雑な技能や能力を獲得していくうえで欠かせないプロセスです。

これらのデザインに有効なのはゲーミフィケーション(ゲームのメカニズムをゲーム以外の分野に応用すること)でしょう。

特に、K-12(幼稚園〜高等学校の教育期間)の学習では、生徒のモチベーションを保つためにゲーミフィケーションツールが大きな役割を果たすと考えられています。ReportsnReportsの調査によると、世界のゲーミフィケーション市場は2025年、30.7億ドルに達する見込み。なかでも最大のシェアを占めるのが教育セグメントで、応用が期待されています。

2016年に世界的ブームとなった「Pokémon GO」も、ゲームによる動機付けが成功した例です。楽しくない行為(運動すること)と、楽しい体験・挑戦(街に点在するポケモンをゲットすること)を重ね、全体としてやりがいのある活動にし、内的要因による動機につなげています。

社会現象となった「Pokémon GO」。リアルイベントの開催もユーザーのモチベーションの1つとなった

社会現象となった「Pokémon GO」。リアルイベントの開催もユーザーのモチベーションの1つとなった

没頭・フローを妨げないためのテクノロジーには、前述のGoogleのウェルビーイング機能が挙げられるでしょう。

③ 自己への気づき

うつ病や不安障害の治療に使われる「認知行動療法」は、自分の思考・感情などに正しい“気づき”をもたらし、ストレスや不安に適応できる状態を作る心理療法です。1970年代後半から有効性が実証されており、自己への気づきがウェルビーイングにとって重要な因子であることを示しています。

この分野にテクノロジーが介入する場合、現段階ではオンライン治療がベストな手法だと考えられています。認知行動療法では患者の微妙なニュアンスを汲み取る必要があり、認知・内省が適切に行われないと、自己批判や反芻(ネガティブな体験を何度も思い返すこと)に繋がってしまう恐れがあるためです。

中国では新型コロナウイルスの発生を受け、医療従事者や国民に向けて、WeChat上でオンライン心理カウンセリングサービスを実施。これには、うつ病、不安症状、不眠症に対する認知行動療法も含まれています。また、アメリカや日本ではオンライン診療に関する規制を緩和。今後、5Gの普及も手伝い、オンライン診療の活性化が見込まれています。

2018年にブームになった自己定量化(Quantified Self)もまた、自己への気づきを促すものです。デバイスやアプリを使い、日々の運動量や心拍数、睡眠時間を記録。手軽にセルフ・トラッキングすることで、自分の状態を可視化します。

Googleは、WHOや米国心臓協会(AHA)と共同で、日々の運動量やアクティビティを管理できるアプリ「Google Fit」を開発。健康増進の目安となる運動量「ハートポイント」をクリアすれば、心臓疾患リスクの減少、睡眠の向上、精神的な安定などを期待できます。

スマートフォン・スマートウォッチなどで運動量を記録できる「Google Fit」。「Nike+」など他社のアプリとも連携している

スマートフォン・スマートウォッチなどで運動量を記録できる「Google Fit」。「Nike+」など他社のアプリとも連携している

今後はIoTの普及によって、より手軽で高精度なセルフ・トラッキングが可能になるでしょう。

④ マインドフルネス

世界的なブームになっているマインドフルネスは、意識を今に集中させ、自分の感情・思考を冷静に認識し、受け入れることを指します。

オックスフォード大学マインドフルネスセンターの研究者、ジンデル・シーガルらが開発した「マインドフルネス認知療法」は、イギリス政府が管轄する特別医療機構「NICE」において、うつ病予防に効果があるプログラムと認められました。

また、マインドフルネスの実践法の1つである瞑想は、脳の島皮質や前頭前野に影響を与えることがわかっています。これは自己認識や感情調節に関わる領域で、ほかのウェルビーイング因子である「自己への気づき」「共感」を促します。

マインドフルネスをトレーニングする方法にはバイオフィードバックがあります。これは、脳波などの生理信号と関連があることを逆手にとり、その信号をコンピュータで認識することで、最適な状態をトレーニングする方法です。

バイオフィードバックでは、センサーを頭部にセットして脳波を測定し、その結果をモニターに表示して、体の状態を可視化する

バイオフィードバックでは、センサーを頭部にセットして脳波を測定し、その結果をモニターに表示して、体の状態を可視化する

マインドフルネスを手軽に実践する方法には、ガイド付きアプリがあります。

マインドフルネスに特化した「Calm」は、瞑想プログラムや呼吸法ガイド、入眠音楽などがまとまったヘルスケアアプリ。Center for Humane Technology(元Googleデザイン倫理担当者のトリスタン・ハリスが創設したデジタルウェルビーイング団体)が20万人のAppleユーザーを対象に行った調査で、”最も幸福度を感じるアプリ”にも選ばれました。

また、Calm創設者が起案した「Moshi」も、子ども向けのマインドフルネスアプリとして人気。2020年4月には1200万ドルの資金調達を発表し、今後、睡眠専門家・科学者の協力のもとコンテンツを充実させていくとしています。

⑤ 心理的抵抗力・回復力

困難や苦境にあっても折れない心理的弾性を指し、心理学ではレジリエンスと呼ばれます。認知行動療法などをもとにレジリエンスを築くと、抑うつ状態が軽減されるだけでなく、精神的な成長に繋がるケースも。これを心的外傷後成長と呼びます。

心的外傷後成長には、人生の意義の発見、他者との交流、有能感の獲得といった持続的ウェルビーイングに関わるもの、ほかのウェルビーイング因子である「感謝」の増幅などがあります。現在、心理学者・カウンセラーなどによる研究・臨床実践が進んでいる分野です。

レジリエンスを高める有名な手法には「SuperBetter」というアプリがあります。これは、アプリの指示に従って行動することで、肉体的・感情的・精神的・社会的回復力を高め、一定の数をクリアすると次のステージに進むことができるヘルスケアゲームアプリです。

SuperBetterのスクリーンショット。「コップ1杯の水を飲む」「1ブロック歩く」などの指示に従い、レジリエンスを高めていく

SuperBetterのスクリーンショット。「コップ1杯の水を飲む」「1ブロック歩く」などの指示に従い、レジリエンスを高めていく

SuperBetterは、ペンシルバニア大学のランダム化比較試験(比較研究法の1つ)、オハイオ州立大学ウェクスナー医療センターの臨床試験でも効果が実証され、学術誌「Brain Injury」「World Psychiatry」にも掲載された実績があります。

⑥ 共感

前項までは個人のウェルビーイング因子でしたが、共感・感謝は社会的因子であり、人とのつながりをもつために必要不可欠な要素です。共感性の欠如は、反社会性パーソナリティ障害などさまざまな精神疾患と関連があることがわかっています。

共感の要素には視点取得と代理感情があり、それを効果的に体験するためのテクノロジーはVRがあります。

VR・AR関連のリサーチを行うARtillery Intelligenceによると、VR・ARの市場規模は2023年までに1,600億ドル(約17.3兆円)に達する見込み

VR・AR関連のリサーチを行うARtillery Intelligenceによると、VR・ARの市場規模は2023年までに1,600億ドル(約17.3兆円)に達する見込み

学術誌「eNeuro」は2020年、一人称視点のVRは脳のネットワークを活性化し、仮想上と実在の体の感覚が同一化する(現実で起きていることかのように感じる)ことを発表。これを活用し、DV加害者など、共感障害を抱える人々の更生プログラムの開発に期待が寄せられています。

また、カナダのハルトン地域警察では、共感にもとづくVRプログラムを活用し、メンタルヘルス関連の電話対応を訓練しています。研修生はヘッドセットを使い、自閉症や統合失調症への対応、自殺防止のモジュールにアクセス。危機に頻している市民の立場を体験するとともに、彼らを安全に導く方法を学んでいます。

これらは社会実装の例ですが、インスブルック大学の社会心理学教授、トビアス・グレイトメヤーらの研究では、向社会的なゲームは他者への共感性を高めることがわかっています。共感性を育むようデザインされたVRゲームは、ウェルビーイングを促進する手法となるでしょう。

⑦ 思いやり・利他行動

進化論の提唱者チャールズ・ダーウィンは、思いやりのある人間で構成されるコミュニティはもっとも繁栄すると説きました。思いやりや、それを動機として行われる利他行動は、集団内外での協力を可能にし、進化に利益をもたらしうるためです。

このように、思いやり・利他行動は社会全体の利益につながるため、超個人のウェルビーイング因子と定義されています。

スタンフォード大学のバーチャル・ヒューマン・インタラクション研究所は、共感・利他性を高めるVRの研究機関。彼らの研究によると、VR上で障害をもつアバターを経験したユーザーは、現実でも障害者の支援に意欲的になり、他者理解が促進されることがわかっています。

このような効果を踏まえ、同研究所はシリコンバレーの企業とともに、ダイバーシティ・トレーニングのソフトウェアを開発。学習者はVRで人種差別・セクシャルハラスメントのシナリオを体験することで、集団における他者への理解、適切な意思決定などをトレーニングできます。

バーチャル・ヒューマン・インタラクション研究所が作成したVRプログラム「1000 Cut Journey」。黒人男性のとして幼少期〜青年期を過ごすなかで、数々の人種差別に遭遇する

思いやりに関する研究は発展途上であるものの、神経科医のオルガ・クリメッキらによると、思いやりのトレーニングはポジティブ感情に関わる脳領域を活性化させることがわかっています。

まとめ:ウェルビーイング(Well-being)はDXの重要なヒントに

ウェルビーイングへの理解は、DXのプロジェクトを企画・推進するうえで重要なポイントとなるでしょう。なぜなら、人々の豊かさはどのように要素分解され、テクノロジーはどう介入するのが適切か、そのヒントを得ることができるからです。

ウェルビーイングについての研究は、今もさまざまな学術的分野から進められています。人々を豊かにするための変革に向けて、ウェルビーイングを意識してみるのもよいかもしれません。

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